最近ではもう使われなくなりましたが、「窓際族」ということばが高度成長時代に流行ったことがありました。出世街道から外れて、会社のお荷物的存在になった中高年サラリーマンを指すことばでした。窓際の席で、外を眺めて時間を潰すだけの哀れな存在といったイメージから生まれたことばだったような気がします。

ところで、「窓際」は英語の世界では決してみじめな場所ではないようです。というのも「重役室」あるいは「役員室」のことをcorner officeといったりするからです。最近オーストラリアから来た旅行者と話す機会があって、そのことを話題にしたら、それはアメリカ英語でしょう、と指摘され、あちらでは、つまりヨーロッパでは、executive roomが一般的だと教えてもらいました。そこで、今度はアメリカ人の知り合いにどうしてcorner officeなんていうのかと訊ねたら、思いがけない返事が返ってきました。光がたっぷり入る部屋だからだというのです。そのとき、窓際族だって、光がたっぷり入る部屋に居る(あるいは居た)のに、ネガティブな意味でしか使われない。一方、アメリカでは広い角部屋で光が燦々と降り注ぐ部屋はポジティブなイメージになる。不思議です。同じ太陽の恵みであるはずの光の効用が太平洋を挟んで、日本ではネガティブに、アメリカではポジティブになる、とは。