artが芸術をあらわすようになったのは17世紀頃だそうで、artという語は技術(practical skill)を意味するarsに遡るそうです。そこで、「教養科目」とか「人文科学」とか訳されるliberal artsの中身は文法、論理学、修辞学、算数、幾何、天文、音楽の七つの科目を指していて、いずれも技術と関係が深いものばかりです。liberalとつくのは、古代ローマにおいてはこれらの科目は自由人のみが学ぶことができたからで、自由人として生きるための学問がliberal artsだったというわけです。ところで、Art is long, life is short.というと「人生は短いけれども、すぐれた芸術作品は長く残る」といった意味で理解されがちですが、これは医者のヒポクラテスのことばだそうで、ここでのartつまりarsは医術の意味なんだそうです。医術を修めるには長い時間がかかるというのが本来の意味だとのこと。「芸術は長く、人生は短し」という訳は「健全なる精神は健全なる肉体にやどる」(A sound mind in a sound body)と同様にややもすると誤解されそうです。ちなみに、旺文社のComprehesiveには「健全な肉体には健全な精神が宿らんことを祈る」という願望文が本来の意味だとしてあります。徒然草にもあるように、肉体が頑健なひとは、病弱な人の悩みや敗者の痛みがわからず傲慢になりがちだ、といっていて、決して「肉体を鍛えれば、精神も鍛えられる」といった薄っぺらな内容ではありません。