live withには「一緒に暮らす。同棲する」という意味の他に「我慢する」という意味があります。to accept a difficult or unpleasant situationとCambridgeにはありますから、「困難なことや、嫌なことなどを受け入れる」というニュアンスがあるようです。もうずいぶん昔の話になりますが、修学旅行の引率で広島のホテルに泊まったことがあります。そのとき、わたくしと教頭とALTが一緒の部屋に泊まることになりました。教頭は英語ができないので、わたくしを通訳代りにつけたのでしょう。当時ALTが修学旅行に付いて来るというのはきわめて珍しいことでした。何か予期せぬ事件に巻き込まれでもしたら、国際問題になりかねない、そんなことにでもなったら大変だと思って、たいていの校長は渋ったのです。己の保身だけを考える器の小さい人間を組織の頭に持つと、ちょうちん持ちみたいな二枚舌の連中が必ず現れ出て、職場の雰囲気を不快なものにしがちです。その年度の校長も自分のことにしか関心のない校長でしたので、ALTを同行させる修学旅行は危険だと察知して、身代わりにちょうちん持ちの教頭を責任者として派遣したのでしょう。たぶん。しかし、そんな管理職の懸念や気がかりや思惑など一笑に付すだけのリベラリズムと懐の深さが、その当時の大宮高校の先生方にはありました。そういう立派な先生方とご一緒できたことは、今にして思えば、とても幸せなことでした。さて、私たち三人に割り振られた部屋は広々とした和室で、私もALTもゆったりと長旅の疲れを癒すことができると喜んだものです。夕食を食べ、温泉に入り、消灯の時間がきて、生徒の部屋を巡回して深夜の1時ちかくに部屋に戻ったとき、一瞬部屋を間違えたと思いました。というのも、擦れた悲鳴のような声が広い部屋に充満していたからです。妖怪が侵入してきたのではないかと本気で怪しんだものです。部屋の明りをおそるおそる点けると、なんとその奇妙な声の正体は、修学旅行の最高責任者である教頭の鼾だというのがわかってやれやれと胸をなでおろしたのですが、その鼾たるやおよそこの世のものとは思えない珍妙で不気味な音でした。わたくしとALTがその夜一睡もできなかったのは言うまでもありません。わたくしはロビーに毛布を持ち込んでソファで寝ようと試みましたが、教頭の鼾は人間の脳に強烈なダメージを与える電磁波を発するようで、部屋の壁を易々と突き抜けてわたくしの神経を痛めつけるのです。ALTはトイレに毛布を持ち込んで便座の上で丸くなって震えながら耐えていました。そのとき彼が口にしたフレイズがI've got to live with this.でした。いやなことを我慢する意味のlive withを知ったのはこのときです。誰しもずっと一緒に顔を突き合わせて暮らしているとちょっとしたことで嫌になったりするものです。たとえば、いびきや歯ぎしりをする人と一緒に暮らすはめになるかもしれないわけですから。そんなことに耐えてともに暮らすことからput up with ~と同じような意味で用いられるようになったのかもしれません。 We will have to, so to speak, keep a low profile and live with this kind of uncontrollable virus. (わたしたちはいわば身を潜めて、この手に負えないウイルスに耐えていかなければならないだろう)