■
A drowning man will catch at a straw. (溺れる者はわらをもつかむ)ということわざで最も重要なのは、前置詞のatだと私は思います。catchは本来他動詞なので前置詞atは必要ないはずですが、前置詞atを伴っているということは、ここではcatchは自動詞として機能しているということになります。catch a straw とすると実際に藁をつかむことになってしまうので、catch atとしているわけです。つまり「一本のわらをもつかもうとする」というのでcatch at a strawとatを付けているわけです。catch at=try to catchと考えると分かりやすい気がします。
■
古代ローマでは天秤で重さを測っていたそうです。天秤で測るときは、釣り合いが取れるまで重りを外側に移動させます。「正確な」という意味のexactの語源が「外側に動かす」という意味なのはそのためです。exが「外」actは動きを意味するactですから、「外へ動く」といった意味になるわけです。The exact description helped to find the missing dog. (その行方不明の犬を見つけるのに正確な描写が役に立った)(レクシス英和) The exact time of the accident was 2.34 p.m. (その事故が起こった正確な時刻は午後2時34分だった)
■
down the roadはin the futureの意味で使われます。この道の先の方ということから「この先」「今後」「そのうち」といった意味に転じたのでしょう。話し手が現在いる地点から離れていく感じなので、「将来」とか「後に」という意味として用いられるようになったとイギリス人のALTは絵まで描いて説明してくれました。本来場所や方向を示すdownが時間を示す語として使われていますが、日本語でも未来のことを「この先」、過去のことを「遠い昔」などと言ったりするのに似ています。なお、up の方がなんとなく未来を表すような感じがする、とALTに話したところ、up the roadとは言わないとのこと。upには近づいてくるニュアンスはあっても、離れていくニュアンスがないからでしょう。The president feared that down the road the whole thing would lead to disgrace. (大統領は一部始終を明らかにすれば将来不名誉なことになるのではないかと心配した) なお、ここでのdownは前置詞です。
■
embraceには 「抱く」という意味の他に「進んで受け入れる」という意味があります。emはinです。braceはブレスレットなどのbraceで腕のこと。「腕の中に」ということから「抱く」という意味になったのでしょう。実際に「抱く」という意味の他に「心に抱く」さらには「熱心に受け入れる」といった意味合いでも使われます。そのあたりがhugと異なるところです。Japan has embraced mixed-race entertainers, even athletes. (日本は混血の芸能人さらにはスポーツ選手さえも受け入れています) このように「抱く」というのは、両腕の中に入れることですから、温かく受け入れるといったニュアンスがあるような気がします。When he was young, he embraced Communist ideals. (若い頃、彼は共産主義の理念を信奉していた) このように主義・思想などを受け入れるという場合にも使われますが、こちらは「抱いて離さない」といったニュアンスがあるような気がします。
■
disburse (費用を支払う) の作りはdis+burseだそうです。面白いのは、burse=purse (財布) だったということです。接頭辞dis-をawayの意味にとると、「財布から離れる」ということになります。おそらく、そこから「支払う」「負担する」といった意味になったのでしょう。[p]音と[b]音は有声音か無声音かの違いだけですから、p→bという変化は不思議な現象ではないにしても、なぜdisburseに限ってp→bと変化したのか不思議です。ところで、pとbの不思議さを思わせるものに、「北京」があります。たとえば、北京大学はPeking Universityですが、北京市はBeijing Cityです。つまり北京はPekingとBeijingと二つ持っているわけです。Tokyo has already disbursed 700 million dollars. (日本はすでに7億ドルを支払っている) Seven hundred million yen for the urgent measures had already been disbursed. (緊急対策用に7億円がすでに支払われていた) このように公のお金に言及する場合に使われることが多いようです。
■
「約束する」はgive one’s word, 「約束を守る」はkeep one’s word,「約束を破る」はbreak one’s wordといった具合に、いずれも所有格と一緒にwordを使います。所有格を付けることで、その人が口にしたこと、つまり「契約」したこと、「約束」したこと、という意味になるからです。I’ll give you my word. (約束するよ) Don’t worry. I’ll keep my word. (心配しないで、約束は守るから) You broke your word. (約束を破ったね) いずれもwordと単数になります。約束はひとつだから単数だと考えてもいいでしょうが、人間と神との契約もwordと単数になることから、「約束」を軽々しく扱ってはいけないということでしょう。なお、wordsと複数になると「口論」といった意味にもなります。It is inconsiderate of him to break his word. (約束を破るなんて彼は身勝手だ)
■
美人なだけに、却って鼻の下にあるほくろが目立つとか、辣腕を振るっていた政治家が女性問題で失敗するとか、「一般的には肯定的であるものが持っている否定的な側面」のことをdownsideと言います。なぜdownsideがマイナスなのかと訊ねたところ、コインを想像すればいいとのこと。サッカー、ラグビー、クリケットなどトスで先行を決めますが、そのとき、裏が出れば、マイナスだと彼らは考えるようです。なるほどコインには表と裏がありますから、コインをイメージすれば、二面性というか、ある人なり物事なりの肯定的な面と否定的な面に言及するdownsideのニュアンスがとらえやすいかもしれません。何か失敗したときに、Don’t let it get you down. (落ち込まないで) と言ったりしますが、だめにするとか壊すとかがっかりするといったニュアンスのdownがdownsideに含まれているような気もします。The downside of the plan is the cost. (いい案だが、欠点はコストだな) The downside of owning your own business is working very long hours. (自営業のマイナス面は労働時間がとても長いことだ)