all of a suddenという表現はサリンジャーThe Catcher in the Ryeの中で何度も登場するフレイズだったので、馴染み深い成句のひとつですが、よくよく見ると、なんとも奇妙な句です。 All of a sudden, he rushed out of the room. (突然、彼は部屋から走り出た)などのように「突然何かをする」といった場合に使われますが、a sudden momentという表現があることからして、all of a sudden momentの momentが落ちたのではないか、と指摘してくれたALTがいました。確かに、momentなどの名詞が省略されたと考えないと、不定冠詞のaがどうして付くのか分かりづらいです。不定冠詞aは名詞のmomentを修飾していたが、時が経つにつれてmomentの方が消えていったのでしょう。また、「突然」という意味からも分かるように、ある事件と接触する時を表すので、前置詞は当初「接触」のonが使われていたと推測することもできそうです。on a sudden momentをallで強めたall on a sudden momentが本来の姿だったが、発音上ofとonを混同してof a suddenが使われるようになり、momentも落ちてall of a suddenという成句になった。そんな風にこの句の歴史を辿ることができそうです。英語の場合とはいささか異なりますが、発音上での混同は日本語にもあります。卑近な例をあげると「一生懸命」と「一所懸命」などがそうでしょう。武士が自分の土地を命を賭けて守るのが「一所懸命」のはじまりですが、それが「一生」懸命に働くといった意味に曲がって「一生懸命」となったというわけです。